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あまり知られていませんが火災保険に加入していると、床や壁につけてしまった傷を保険金で修理できます。たとえば子どもがおもちゃを落としてしまい、床に大きな傷がついたら、保険会社に申請することで補償してもらえ、保険金を受け取れます。
それなら賃貸住宅でつけてしまった傷も、引っ越し前に火災保険を使って原状回復できそうな気がしますよね。そこでここでは、賃貸住宅でつけてしまった床や壁の傷を、火災保険を使って補修できるのかどうかについて解説していきます。
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丸尾健 FP経験15年目
(1971.1生まれ)
株式会社N&Bファイナンシャル・コンサルティング代表取締役。大学卒業後、大手商社系ハウスメーカーの店長職を経て国内金融機関のファイナンシャル・プランニング部門に転職。FP経験現在15年目。新規年間相談件数120件前後、面談累計件数1,500件以上。主に個別相談を中心に活動する実務家FP。
賃貸住宅の傷は火災保険で補修できない
まず、結論からお伝えしますが、賃貸住宅の床や壁につけてしまった傷を、賃貸物件の火災保険の保険金で補修することはできません。
なぜ火災保険で補修できないのかを説明する前に、まずは火災保険の基本的な考え方について説明しておきます。
一般的な賃貸物件の火災保険は下記の3つの保険で構成されています。
- 家財保険
- 借家人賠償責任保険
- 個人賠償責任保険
どれも床や壁の傷を補修するのに使えそうだと思うかもしれませんが、実はどの保険も床や壁の傷の補修には使えません。それぞれの保険の特徴と、なぜ傷などの補修に使えないのかについて解説していきます。
家財保険
賃貸物件で火災などが発生し、家財が損害を受けたときに保険金を受け取れる保険です。家事や水害だけでなく、火災保険によっては「破損・汚損」も対象となっており、たとえば子どもの投げたおもちゃがテレビにぶつかって、テレビが壊れたときは火災保険を使って修理できます。
その理屈なら、子どもの投げたおもちゃが床や壁を傷つけたときに、火災保険で補修できるのでは?と思うかもしれませんが、
床や壁は「家財」ではなく「建物」に分類されます。このため、補償対象外となり家財保険では補修できません。
借家人賠償責任保険
借家人賠償責任保険は、自分の過失により、火事などで建物に損害を与えてしまったときに、大家さんに対して損害を賠償するときに使える保険です。これなら、賃貸物件の壁や床に傷をつけたときに保険金を受け取って補修できそうな気がしますよね。
ところが借家人賠償責任保険は「火災、破裂・爆発、水ぬれ」などを起こしたときのみ適用され、その他の損害については補償対象外となっています。
たとえば寝タバコで火災を発生させたときには、借家人賠償責任保険の保険金で損害賠償できますが、子どもが転倒して壁に穴が空いたというような場合には、対象外となるので保険金を受け取れません。
個人賠償責任保険
個人賠償責任保険は、日々の暮らしのなかで自分や家族が他人にケガをさせた場合や、他人の物を破損させてしてしまった場合に補償を受けられる保険です。床や壁の傷は、大家さんの所有物を破損させたわけですので、個人賠償責任保険なら保険金を補修に使えそうですよね。
たしかに個人賠償責任保険は、他人の物を破損させた場合には補償対象になるのですが、借りている物を破損させた場合には補償対象外となります。
賃貸物件は「借りた物(借りた部屋)」になるため、傷つけたとしても個人賠償責任保険では補修できません。
修理費用保険でも補修できない
住宅用火災保険の特約に修理費用保険がありますが、こちらは大家さんとの賃貸契約に基づいて、借りた人が修理した場合の費用を補償する特約になります。たとえば飛び石などで窓ガラスが割れたときは、借りた人が修理しなくてはいけませんが、修理費用保険に加入しておけば、保険金で修理できます。
ただし、この特約も制限があり、日常生活でついた傷や劣化、機能の喪失や低下をともなわない損害は補償対象外になるため、基本的には傷の補修には利用できません。
引っ越し時に発生した傷は業者の保険で補修する
賃貸物件の場合、ほとんどのケースで火災保険を使って傷を補修することができません。せっかく保険に加入しているのに理不尽だと感じるかもしれませんが、賃貸物件の火災保険の仕組みがそうなっている以上、受け入れるしかありません。
ただし、床や壁に傷をつけたのが引っ越し業者だった場合には、自己負担で補修する必要はありません。引っ越し業者の多くが、引越荷物運送保険に加入しており、搬出や搬入で家財が破損した場合だけでなく、建物に傷がついたときにも修理代を受け取れます。
引っ越しの搬出や搬入で部屋の床や壁に傷がついたときには、まずは引っ越し業者に事故発生の連絡をします。保険会社とのやり取りは引っ越し業者が行ってくれるので、保険金請求手続きを引っ越し業者に委任してください。
引っ越し業者が事故を認めない場合
引っ越し業者が建物の床や壁に傷をつけた場合、引っ越し業者の責任で補修することになるのですが、引っ越し業者によっては「最初から傷ついていた」として、非を認めないケースがあります。そのようなことにならないために、下記の手順で請求してください。
- 現場の責任者に傷つけたことを認めさせる
- スマホで傷の写真を撮っておく
- 引っ越し業者に事故証明書を発行してもらう
ここまでできれば、引っ越し業者が事故を認めず保険金で補修できないという問題を回避できます。できることなら、引っ越し前に建物の床や壁の写真を撮っておきましょう。搬出や搬入前に傷がなかったことを証明できれば、現場の責任者も認めるしかなくなります。
傷を火災保険で補修できなかったらどうなる?
床や壁についた傷は、火災保険で補修できないことを理解してもらえたかと思います。そうなると気になるのが部屋を退去するときに、いくら請求されるかですよね。賃貸物件は原状回復させなくてはいけないので、高額な費用を請求されそうで不安になる人もいるかと思います。
どれくらい請求されるかは、どのような理由でついた傷なのかによって異なります。傷の種類と誰の負担で補修するのか見ていきましょう。
経年劣化や通常損耗による傷
大家さんや不動産管理会社の負担
引っ越しなどでついた傷
借りた人の負担
誤ってつけてしまった傷
借りた人の負担担
このように、日常生活のなかで自然についてしまった傷は、大家さんや不動産管理会社の負担で修繕してもらえるので費用請求されることはありません。それに対して不注意などでつけてしまった傷や、引っ越しなどでついた傷は借りた人の負担になります。
フローリングの場合には張替えになる場合もあり、そうなると10万〜20万円くらいの費用を請求されます。壁紙の張替えになる場合には、6畳で5万円前後請求され、補修にかかる費用を敷金から差し引かれます。
補修ミスで請求額がさらに上がってしまう可能性もありますので、補修は大家さんや不動産管理会社経由でプロに任せましょう。
まとめ
火災保険に加入していれば、引っ越しなどでつけてしまった傷を保険金で補修できるかもしれないと期待している人もいるかもしれませんが、残念ながら賃貸物件の火災保険は家財の補償しか受けることができません。このため建物につけた傷は補償対象外になります。
ただし、引っ越し業者がつけた傷であれば、引っ越し業者が加入している引越荷物運送保険などで直してもらいましょう。このとき証拠がないと引っ越し業者は対応してくれませんので、現場の責任者にチェックしてもらい、写真を撮影した上で、事故証明書を発行してもらいましょう。
また、日常生活でついた傷以外は、原則として借りた人の負担で補修することになります。傷の大きさによっては高額な負担になることもありますが、自分で直すのはNGです。大家さんや不動産管理会社の判断に任せて、請求された金額を支払いましょう。
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